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若冲と応挙の蝶 [雑感]

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若冲も応挙も江戸時代の素晴らしい絵師です。

伊藤若冲(1716-1800)の代表作の一つに,芍薬群蝶図があります。

彼は,いろんな動物を色鮮やかに生き生きと描いています。しかし,どうしても興味が行くのは蝶です。 若冲の蝶たちは,けっこう精密に描かれてはいますが,何か変です。おそらく,蝶に特に興味お持ちでない方は気がつかないかも知れませんが,中央やや左の青筋の通ったアゲハ!そうアオスジアゲハの様に見えますが,この絵のものは違います。尾状突起があります。実物のアオスジアゲハには尾状突起はありませんので,これは架空の蝶です。

それだけでなく,実物のアオスジアゲハは羽根が細長く活発に飛ぶわけですが,この絵のものはたっぷりとしていて,クロアゲハかモンキアゲハ,もしくはカラスアゲハもしくはミヤマカラスアゲハのそれだと思われます。アオスジはけっこう精密に描かれていますし,クロアゲハかモンキアゲハと思われる輪郭もしっかり捕えられています。これは,どうも実物を見て描いたのではなさそうです。若冲の頭の中で2,3種のアゲハが混然一体となっているのでしょう。

日本画に登場する蝶は,装飾的なものだとばかり思っていましたが,円山応挙(1733-1795)の写生画を見てその先入観が一変しました。西洋の写生画の様に精密に描かれています。種を完全に同定できます。

応挙のアオスジアゲハを見てみます。
さすがに,応挙のは写生ですから,忠実に写し取られています。中央下のものは,全くアオスジアゲハ以外の何物でもありません。図鑑に載せてもよいくらいの忠実さです。蛾や蜉蝣類も蝶として捕えているのが面白いところです。左の二匹はカゲロウ類です。ヒョウモンはミドリヒョウモンの♀とみて良いでしょう。裏まで描いているのは,すばらしい観察眼だと思います。ヒョウモン類は似たものが多く,裏面での区別がしやすいわけです。

右上はじにはアカタテハが見えます。アオスジアゲハの左上はジャノメチョウ♂,その上は現代の分類では蝶では無く,イカリモンガです。その左はベニシジミ,その上のは画像がはっきりしませんがおそらくモンシロチョウ,その上がコミスジです。その他は蛾でしょう。蛾は蛾でしっかり同定できるはずです。

さて,しっかり同定できる応挙のものとは異なり,最初の若冲の作品の中の蝶は,大きなアゲハ類に限っても,しっかり同定出来るのは,右側のクロアゲハくらいでしょうか。白いのはおそらくモンシロチョウ。黄色いのになるともうあやしくなります。上の逆さに飛んでいるものは,羽根の柄からすればアゲハチョウ(ナミアゲハ)に見えますが,色が黄色い事と黄色い領域が広いですから,キアゲハの様にも見えます。しかも,尾状突起はアゲハチョウともキアゲハとも異なり,やはりアオスジアゲハにつけた尾状突起と共通の黒色系統のアゲハのものです。おそらく,若冲の脳内イメージには,アゲハ類の尾状突起を含む輪郭が入っていて,それに羽根の柄を替えると言うヴァリエーションで種類を描き分けているのでしょう。

脳内イメージで描いている若冲と,あくまで対象に忠実な応挙と。蝶の描き方について感じたところです。
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シロクマ

これは面白い記事でしね。
『見たままを書く』応挙と『見るものを描く』若冲とか評するとかっこよくまとまるかも知れませんね。
若冲は鶏とかを自ら飼っていたりして写生していたそうですが、蝶も生きて飛んでいる姿のイメージを見て描いていたのでは?なんて思いました。
それか、虫が全く触れない人だったとか(笑)
by シロクマ (2017-10-01 23:06) 

Enrique

シロクマさん,
日本画での自然物の描き方は写実的でないと思っていましたが,結構精密に描かれています。コメントいただいて感じましたが,若冲は蝶を捕まえずに飛んでいるものを観察して脳裏に焼き付けたのに対し,応挙は標本を描いているようです。絵にそれは現れているように思えます。
by Enrique (2017-10-03 06:28) 

アヨアン・イゴカー

>精密に描かれてはいますが,何か変
最初読んだとき感じたのは、飛び方のことを言っているのかと思いました。あたかも蝶々たちが鳥の飛翔姿のように描かれているからです。
でも、答えはアオスジアゲハだったので、これも確かにそうだと納得しました。

絵画でも演劇でも共通することですが、何々風に描くのと、何々を描くのとは全くことなります。後者の場合は、科学的にも資料価値があります。前者はより感情に訴える手法で、基礎力がなくてもできることがあります。
芝居で言えば、いかにもそれらしく演技することと、その人物になりきって演技することの違いです。
by アヨアン・イゴカー (2017-10-09 12:11) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,たしかに若冲のは飛びかたもへんです。鳥のようでもあり,落ち葉が散らされたかんじでもあります。装飾風の描画であることは否めません。
絵画としては若冲が面白いのかもしれませんが,応挙の写生力は素晴らしいと思います。
by Enrique (2017-10-10 18:22) 

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