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認識のあいまいさ~高圧電流?~ [雑感]

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先月,「具体と抽象の曖昧化」でよく混同されているものを取り上げました。
明らかに分かってないという間違いを挙げてみました。
それはその分野についてたまたま気づくだけで,じぶんの不案内な他の分野では同様な間違いを犯しているのかもしれません。

Powerlines near Searchlight, Nevada, May 1972, The U.S.National Archives
「高圧線には,『高圧電流??』が流れているから危険である。」
「高圧電流」とは一体なんでしょう?高圧なのは電圧であって,電流ではありません。むろん電圧が高いと言う事は危険な事は確かですが,電圧と電流とは力と速度くらい別の量です。「高圧線」は正式には「送電線」と呼びますが,送電ロスを減らすために電圧を高めて(電流を減らして)います。商用電力は交流ですから,電圧の上げ下げは自在です。かつてのエジソンの送電事業では,直流110Vで送って,わずか1マイル先で電燈が暗くなってしまいました。直流では電圧の上げ下げが容易には出来なかったからです。

現在ではパワーエレクトロニクスが進歩していますから直流でもロスの少ない電圧の上げ下げは可能ですが,それでも内部的には一旦交流を介してやります。電圧を上げるとなぜロスが減るのか?電気の常識事項であっても,一般にはなかなか理解され難いようです。

力学的な例え話をすれば,抵抗のあるところで小さな力で激しい動きをするのは損だから,仕事率(電力に相当)が一定ならば大きな力(高電圧)でゆっくり動かし(小電流)ましょうということです。例えば,10kgの荷物を10個,一定の時間に一定距離移動させるという仕事があったとします。10kgづつで10回で運んでも,一遍に100kg運んでも同じ仕事です。ただし,電力というのは「仕事率[W]」の事ですから,その仕事を同じ時間でやらないといけませんので,10kgづつ運ぶ場合は,いっぺんに運ぶよりも10倍速く運ばないといけません。

ロスが無ければ,両者の仕事率は同じですが,現実には多かれ少なかれロスがあります。通常,ロスは運ぶ速度が大きくなればなるほど増加します。速度を出すとロスが大きいですから,小分けにちょこまか運ぶよりも,いっぺんにゆっくり運んだ方がずっと有利と言う事になりますす。抵抗の大きい水中で荷物を運ぶことを考えてもらえば分かりやすいかもしれません。速く動かそうとするとものすごいロスが発生する事は想像に難くないでしょう。荷物を移動させるに要する仕事率よりもロスの仕事率の方がずっと大きくなってしまう事だって起こります。一度にゆっくりと運べば,ロスは小さくする事が出来ます。

電気の場合は連続的ですから,原理的にはいくらでも電圧を高く(力を大きくして)して電流を小さく(ゆっくり)することで,送電線のロスを減らすことができます。もっとも,むちゃくちゃに上げすぎても絶縁の問題や変電によるのロスの発生も出て来ますのでので,現在では最高100万Vくらいになっているということです。

もちろん,力学的な例え話などせずに電力の式とオームの法則から,

電力 P = IV = I2R.

抵抗Rを持つ送電線の抵抗による電力ロスPは,そこに流れる電流Iの二乗で与えられますから,同じ電力を送るにも例えば電圧を10倍に上げて電流を1/10に減らせば電力ロスは1/100となります。現在用いられる最高の送電電圧100万Vを用いれば,もし100Vで送電するのに比べて,ロスは1億分の1に低減できることになります。

送電線に流れている電流もかなり小さいものです。普通数百Aですので電流の大きさだけからすれば,自動車のエンジンを掛ける際のセルモーターの始動電流と大差ありません。自動車の場合バッテリー電圧が12Vしかありませんので,電流でパワーを稼いでいる訳です。よく送電線から発生する磁界を問題視される方がいますが,磁界は電流により発生しますので,電流値が小さい送電線からの磁界はかなり小さい上に3相でほぼキャンセルされますから,地上では地磁気よりもはるかに小さな影響しかありません。
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アヨアン・イゴカー

>よく送電線から発生する磁界を問題視される方がいますが,磁界は電流により発生しますので,電流値が小さい送電線からの磁界はかなり小さい上に3相でほぼキャンセルされますから,地上では地磁気よりもはるかに小さな影響しかありません。
このご説明のお蔭で、非常によく分かりました。地上での地磁気よりも遥かに小さな影響なのですね。
by アヨアン・イゴカー (2018-02-10 23:15) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,コメントありがとうございます。
送電線からの影響は,電界,磁界,振動・音などがあると思います。
なぜその中で最も影響の少ない磁界を問題にされるのが不思議です。磁界に関しては発生源の電流そのものが小さいこと,3相でほぼキャンセルされること,距離が十分離れていることの3点より,磁界の影響は無いと見て良いです(磁界そのものの健康影響は見出されていません)。
以前とあるところからの依頼で調査したことがあります。電力会社の方は高価な電磁界解析ソフトと計測器を用い,私は初等電磁気学によりExcelで計算しましたが数値はぴったり一致しました。数値は地磁気よりも桁違いに小さく,身近な電気製品のの方がずっと大きいという結果でした。影響あるとすると,最後の振動・音のほうではないかと思っています。
by Enrique (2018-02-12 07:40) 

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