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インハーモニシティと弦長補正(2) [楽器音響]

このタイトルでの(1)につづく続編です。

言葉で表現していても,定量性がありませんので式で示しておきましょう。
弦長と音程の関係式は,以前も挙げた通り,

f n = n 2 L T ρ                 (1)

と表されます。ここで,fnn次の振動周波数[Hz]です。いま音程を担う基本波を扱えば,n=1です。Lは弦長,Tは張力[N],ρは線密度[kg/m]です。この式は両端固定の弦の一次元の波動方程式から解いた解です。

この式の表す弦の振動周波数は弦が理想的な場合です。長さに比べて十分細く弦は理想的にしなやかだとします。弦張力と弦の線密度が一定であれば,振動周波数は弦長に反比例します。すなわち,弦長が1/2になれば周波数が2倍(オクターブ)に,1/3になれば,周波数が3倍(12度)にと言った様に調和のとれた状態だと言う事です。このような弦長や管長と音程とのシンプルな関係が弦楽器や管楽器で成り立ちますので,歴史的に西洋では音階の研究にモノコードが,中国では笛が使われて来たのでした。

さて,これは弦が理想的な場合ですが,上で述べたように,弦の曲げ剛性が効いてきますとインハーモニシティが出てきます。上で示した式を理想的な場合の弦の周波数の式として,f1idealとしますと,現実に現れるインハーモニシティを含んだ式fnactualは下式の様に補正されます。

f n a c t u a l = n f 1 i d e a l 1 + B n 2            (2)

ここでのBをインハーモニシティ(不調和度)と言っています。その中身は,

B = π L 2 E I T                (3)

となっています。さらに,この中のIは材料力学でお馴染みの断面二次モーメントで,断面が円形の場合, I = π d 4 64 となって,直径の4乗に比例する量です。ここで,ヤング率Eが一定ならば(同じ楽器内では弦はたいがい同一素材で作られます),太さのみ,しかもその4乗で効きますから,インハーモニシティの弦による差異は弦の太さのみの差と言えます。ただし,スチール弦とナイロン弦とを比較する場合には,太さは4乗で効くとは言っても,スチールのヤング率が約200GPa,66ナイロンが約3GPaと大幅に違いますから,太さとヤング率両方を考慮しないといけません。

弦の太さは,何で決まるのでしょうか?
理想的には(1)式で支配される条件で一義的に決まりますから,弦長が一定ならば,特定弦の音程は,張力Tと線密度ρとの兼ね合いで決まります。さらに,張力が決まれば,残るは線密度のみです。密度(比重)の小さいナイロン弦は断面積で稼がないといけないので太く,スチール弦は細くなります。その断面積比は弦素材の密度の逆比になり,太さ(直径)の比は,その平方根になります。ナイロンの体積密度が1.13g/cc,スチールの同密度が7.8g/ccとすれば,それぞれの素材の弦を同じ張力で同じ音程に合わせるための弦の太さはナイロン弦はスチール弦の2.62倍太くする必要があるわけです。

そこでのインハーモニシティの出やすさはどちらが大きいでしょうか?Bに寄与するのは,ヤング率Eと断面二次モーメントIでした。ナイロン弦のEはスチール弦よりも遥かに小さいわけですが,太くしなければいけないので,今度はそれが4乗で効いてきます。結局,Eは3/200だが,Iの方は,今度は密度比の逆比の2乗となり,47.6倍となります。結局,インハーモニシティを発生するEI積の値としては,ナイロン弦がスチール弦よりも3割程小さいのみで,さほど大差はない事がわかります。

結局,モノフィラメントのナイロン弦は,同じくモノフィラメントのスチール弦よりインハーモニシティは3割程小さいと言えます。ただし,この事は,①,②弦に関してであり,③弦に関しては,クラギでは一般的にモノフィラメント・ナイロンですが,アコギでは巻弦で芯線を細くできるため,インハーモニシティの発生量は③弦では逆転していると思われます。

さて,ここで登場した巻線ですが,実はこれがインハーモニシティを減らす優れモノです。周りに巻かれた銅などの巻き線は,弦の線密度のみ増加させますが,曲げ剛性は余り増加させません。巻き線のIを正確に計算する事は困難ですが,ほぼ芯線のそれで済むとすれば,インハーモニシティは大幅ダウンです。

なお,巻弦の場合芯線の曲げ剛性でほぼ代用できそうだというのはスチール弦の場合ですが,クラギの巻弦の芯線は細い糸を束ねたものですから,曲げ剛性はさらに小さく,ほとんど無視できる程度のものでしょう。複合構造としての曲げ剛性はどの程度になるかですが,スチール弦よりはかなり小さそうです。

次回は,弦長の補正量が具体的にどの程度の値になるかを改めて計算してみることにします(つづく)。
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たこやきおやじ

Enriqueさん

(2)式のルートの中のBの所は、n^2xBだったと思いますが。また、Bは(2)式を求めてルートの中に(3)の右辺が出てくるのでそれをBと置いたと見ればよいのでしょうか。計算すればわかる事ですが、すみません。(^^;
Enriqueさんの説明は分かりやすいです。また「つづき」を楽しみにしております。(^^;

by たこやきおやじ (2019-05-27 09:59) 

Enrique

たこやきおやじさん,
ご指摘ありがとうございます。数式入力を間違っていました。
数字を入れて見ると,異常に小さいので気が付きました。
元の非線形偏微分方程式というのは,解析的に解くのが困難なので,ピアノ弦の研究からの受け売りですね。
あと,振動論の講義では無いので調和振動についてはものすごく端折った説明です。
by Enrique (2019-05-27 10:53) 

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